GASTR DEL SOLでの活動をはじめ、後にはSONIC YOUTHにも加入し、USポストロック〜アヴァンギャルド/実験音楽を語るうえで欠かすことのできないキーパーソン、現在は日本を拠点に活動するJim O'Rourke。1999年にDRAG CITYからリリースされた代表作『Eureka』の再発盤。友沢ミミヨによる独特なイラストを配したジャケットも強烈な印象を残す、彼の膨大なディスコグラフィーのなかでも「唄モノ」としての才能が一気に開花した歴史的重要作です。前作『Bad Timing』で展開したJohn FaheyやVan Dyke Parks、Charles Ivesなどへ連なるO'Rourke独自のアメリカーナ解釈をさらに発展させながら、本作では60〜70年代のソフトロック、フォーク、ジャズ、ボサノヴァ、ラウンジ、オーケストラルポップなどの要素を大胆に導入。Burt BacharachやVan Dyke Parksを思わせる華麗なアレンジメント、ホーンやストリングスが描く優雅な旋律、柔らかなギターやピアノを緻密に重ねながら、その背後では電子音、ノイズ、不穏な響きが薄く蠢き続けます。一聴すると極めて美しく、どこか懐かしい往年のポップミュージック。しかし細部へ耳を向けるほど、その整った表面の下で奇妙な音響処理やアヴァンギャルドな構成感覚が作用していることに気付かされる。実験音楽とポップスを別々のものとして扱うのではなく、伝統的なソングライティングやオーケストレーションそのものを実験の対象としてしまうO'Rourkeならではの方法論が徹底されています。そして何より衝撃的なのがJim O'Rourke自身の「歌」。GASTR DEL SOLをはじめとするそれまでの実験的な活動からは想像できないほどメロディーへの愛情が前面に現れ、ひねくれたユーモアや皮肉を滲ませながらも、驚くほど繊細で美しい旋律を聴かせます。Pitchforkも後年、本作をそれ以前の『Bad Timing』と比較しながら、O'Rourkeの歌声が前面に登場したことを最大の変化として挙げ、ソフトロック、ボサノヴァ、ラウンジジャズなどを独自の感覚で再構築した作品として位置づけています。古き良きアメリカンポップスへの深い愛情と、現代音楽、即興、ノイズ、電子音楽を通過してきた前衛性。その一見相反する要素を高度なアレンジメントによって同じ場所へ着地させ、「実験音楽」と「ポップミュージック」の境界そのものを曖昧にしてしまった問題作にして大傑作。DRAG CITY自身がリリース時に「experimental MOR」と表現したのも納得の、耳当たりの良いポップスの姿を借りながら内部では途方もない実験が行われている作品です。90年代に「ポストロック」と呼ばれた音楽が、単なるギターロックの方法論ではなく、過去の音楽を解体し、録音、編集、アレンジメントによって新しい文脈へ置き直す試みでもあったことを象徴する一枚。後の『Insignificance』『Simple Songs』へと続いていくJim O'Rourkeの唄モノ作品の原点であり、実験音楽家が突然ポップスを作ったという以上に、「ポップスそのものを実験音楽として成立させた」90年代ポストロック史に残るマスターピースです。