THE SEA AND CAKE / Nassau 2xLP

シカゴのインディー/ポストロックシーンを象徴するプロジェクト、THE SEA AND CAKEが1995年に発表した2ndアルバム『Nassau』の再発盤。オリジナル同様THRILL JOCKEYからのリリースです。メンバーにはTHE COCTAILSのArcher Prewitt、SHRIMP BOATのSam PrekopとEric Claridge、そしてTORTOISEのJohn McEntireが名を連ね、90年代シカゴ周辺でジャンルを横断しながら発展していったインディー/ポストロックシーンの豊かな人的ネットワークをそのまま映し出すような布陣となっています。同年に発表された1stアルバムの延長線上にありながら、『Nassau』ではバンドの個性がより鮮明に確立。Sam Prekopの気怠く柔らかなヴォーカル、ジャズやボサノヴァを思わせる軽やかなコード感、Archer Prewittの端正なギターワーク、Eric Claridgeのベース、そしてJohn McEntireによる緻密なリズムとスタジオワークが有機的に結びつき、ロックバンドというフォーマットを保ちながら、その内部構造を静かに組み替えていきます。シカゴ/TORTOISE周辺のシーンの奥深さをすぐさま痛感させられる一枚でもあり、とりわけプロデューサー/ドラマーとして関わるJohn McEntireの音楽的志向の振り幅には改めて驚かされます。TORTOISEで展開していたポストロック的なミニマリズムや実験性、反復を重視したリズム感覚、スタジオそのものをひとつの楽器として扱うような音響処理。それらをここでは前衛性として露出させるのではなく、洗練されたソフトロックやインディーポップの内部へ自然に溶け込ませています。音数を必要以上に増やさず、それぞれの楽器の間に十分な余白を残したアンサンブルは非常にクールでありながら、決して無機質ではありません。Sam Prekopのメロディーには独特の温度と人懐っこさがあり、ジャズ、ボサノヴァ、ソフトロック、インディーポップ、実験音楽といった異なる要素が、ジャンルを誇示することなく同じ風景の中に存在しています。この「何をやっているのか簡単には分類できないのに、聴こえてくるものは驚くほど自然でポップ」という感覚こそ、THE SEA AND CAKEの大きな魅力です。90年代半ば、ハードなギターサウンドを中心としたUSオルタナティブとはまったく異なる方向から、ロックの可能性を更新していたシカゴのシーン。その中でTHE SEA AND CAKEは、TORTOISEのように実験性を前面へ押し出すのではなく、ポップソングの心地良さを保ったまま音響やリズム、アレンジメントの可能性を拡張していきました。ポストロック的なミニマリズムと実験性、スタジオワークを駆使した斬新なサウンドプロダクション、そして洗練されたソフトロック/インディーポップのメロディー感覚。それらをまったく違和感なく融合させたサウンドは、当時のインディー/オルタナティブシーンにおいて極めて新鮮なものでした。いわゆる「ポストロック」という言葉だけでは到底括り切れない、90年代シカゴの自由な音楽的空気と創造性を封じ込めた重要作。30年以上を経た現在でも、その端正で涼やかな佇まいがまったく古びない名盤です。
  • Label:THRILL JOCKEY
  • Price:6,880 円
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