2023年に再始動のアナウンスで世界中のインディロックファンを歓喜させたテキサスのThe American Analog Set(以降AmAnSetと略)。彼らの復活作品とタイミングを合わせるかのようにNUMEROからはキャリアの初期作品を網羅した5枚組BOXセット「New Drifters」がリリースとなりました。このBOXに収められている作品たちのオリジナルのリリースレーベルは同郷のEmperor Jones(Butthole SurfersのKing Coffeyもオーナーの一人)です。 収録作品は以下の4タイトルとなります。
・LP-1「The Fun Of Watching Fireworks」 1996年リリースの1stアルバム。
・LP-2「From Our Living Room To Yours」 1997年リリースの2ndアルバム。
・LP-3「The Golden Band」 1999年リリースの3rdアルバム。 1stから3rdまでサウンドスタイルに劇的な変化はなく、中心メンバーであるAndrew Kennyの世界観が極まっていく過程を感じることができます。
・LP-4&5「Nine Legend Road」 今回のBOXリリースで最も重要なのが2枚組のこのタイトルです。 1枚目の方は7インチ、アウトテイク、デモ等を収めていた編集盤「Through The 90s: Singles And Unreleased」がベースになっています。ライブテイクやリミックス曲が省かれ、曲順が変更されました。2001年当時、この編集盤はCDリリースのみだったので初ヴァイナル化となります。2枚目ではNUMERO仕事ともいえる発掘音源が解禁。とりわけ「Queen of Her Own Parade」の出来栄えが素晴らしいです。AmAnSetらしい浮遊感に催眠歌唱が融合した極上のサイケデリアを体験できます。これほどの曲が埋もれていたことに驚きです。
いずれの作品も今回の再発にあたりオリジナルのアナログテープからリマスタリング済みということで、彼らの持ち味の一つであるヴァイブラフォンやマリンバの音も一層心地よく響く処理が施されています。8トラックで録音された楽曲は、ローファイの一言では表現できない独特で優しい音を聴かせます。リズムはブラシでなぞるゆったりとしたドラムと、柔らかな空気を生み出すベースラインに包まれています。ギターや鍵盤は音数少なくも一音一音が印象的に鳴り、メインメロディーを何度も繰り返す構成の楽曲が多いのも特徴で、控えめなトーンで呟き囁くようなAndrewの歌声も相まってリスナーを夢見心地な気分に誘います。派手なギミックや大仰な展開をせず、一曲がゆるやかに流れる作風はキャリアを通じていえる部分です。 AmAnSetの音楽性をジャンルでカテゴライズするのは難しく、歌有りのインディロックでありながら、ポストロックやクラウトロックを感じる部分もあります。stiffslack的な視点でいえば、ALOHA、TORTOISE、MERCURY PROGRAMといった鍵盤打楽器を有するアーティストや、DEATH CAB FOR CUTIE、IDA、DUSTER、GALAXIE 500などのリスナーに愛されてきたと言えば話が早いかもしれません。本作のBOX付属のブックレットには歌詞、多数の写真、Ken Shipley(Numero)によるAmAnSetについての解説テキストが収められています。解説の内にはAndrewのコメントが引用されています。「スタジオにもいかず、専門家の助けも借りず、この3枚のレコードを自分たちだけで仕上げました。それはとても特別なことで、ささやかな喜びでもありました」このDIYスタンス、実験精神こそが彼らの魅力の根底なのでしょう。時系列でいくとこの後にTigerstyleに移籍し、傑作4th「Know By Heart」で広く世に知られることになるのですが、初期の作品を愛聴盤に挙げるリスナーも少なくありません。そのためか中古市場で初期作品のヴァイナルを見かけることは滅多にありません。今回の再発の意義はとても大きいといえます。(tema)